さつき全人教育の基底
6つの視点
真・理の教育
― 知恵をやりくりして、自分で手がかりをつかむこども ―
こどもは、ふつうに感じていたことを不思議に思ったり、同じことでも
違ったふうに考えてみたりすることを好みます。こどもが熱中して知恵を
やりくりしているのは、物と物とを離したり関係づけたり、足りないもの
を補ったりするなど、自分が取り組んでいるものごとのからくりを知りた
い内容がたくさんあるときです。いまの自分が持っている興味を満足させ
てくれたり、自分の関心をもっと高めてくれる手がかりを絶えず求めている
のです。この、もとめよう、明らかにしようと好奇する〈心〉に勢いがある
と、とくにこどもは真の「知の力」を働かせることができます。
そこで指導では、ちょっと待ってやります。すると、こどもは回り道を
する時間があります。でも、ただ待つだけだと子どものせっかくの経験が
カラ回りすることもあります。回り道をしているときに、こどもがどのよ
うにして知恵をやりくりしているのかをまず見とどけてから、参加し助成
しながら、こどもが自分で手がかりを見つけるように意図する教育です。
美・麗の教育
― 予感し、触れるこども ―
こどもは混沌とした、ひろがりをもった〈心〉のあり方によって、直観
的にものごとにふれることができます。この「振り子」のような〈心〉の
状態がいきいきとしていることが大切です。こどもは自分が思ったり感じ
たりしていることと一瞬のひらめきとを一緒にすることが得意です。
元気に歌うことや静かに歌うことを体験したり、草花に見入ったり、
お話に吸い込まれる気持ちになったり、自分の〈心〉に現れるものを描き
足しながら制作をするなどは、こどもが自分のすべての感覚をひらいて調
子づくチャンスです。こどもの中に生きづいている対象への働きかけが生
まれ変わりながら、こどもの美的感性を磨いています。
善・徳の教育
― わきまえを持つこども ―
「自然」に善・悪はありません。
どういうことが〈善い〉ことで、どのようなことが〈悪い〉のかはすべて
人とのかかわりの中で生じることです。
自分で「よい」-快-と感じる態度だけで友だちと関わりを持とうとし
ても、なかなかうまくいかないこともあります。その時のこどもの〈心〉
の様子が大事です。こどもが自分に教えることを学びとる機会には、こど
もとこどもとのかかわりに教師がどのようにかかわるかという指導の真価
が問われています。
とくに遊び相手を気にし始めてくる幼児期には、大人や友だちなど〈人〉
との直接のかかわりの中に「自律」の基礎があります。
望の教育
― 自信をもって生きるこども ―
信頼感を持っているこどもの育成をめざす教育です。
人の〈心〉は自分の中にありながら、自分ではどうしようもないことがあ
ります。
こどもにも過剰に言い放っているときの自分を辛く感じていることがある
のです。自分の〈心〉をいっときも早く明るい気分にしたいと望んでいま
す。そのようなときには信頼感をまず「与えてやる」ことです。〈こどもへ
の信〉は、こどもを「受け入れてやる」ことと同じです。
こどもが自分を再びとりもどす手がかりをつかむと、希望を持てた自分
に本当の信頼を生み出します。大人もこどもから希望を与えられます。大人
はまたこどもに返してやります。
自分と同じ方向を向いている人に出会い、そのような〈ときを迎える〉
ことによって、こどもの未来は大きくふくらんでいきます。
健の教育
― 身体のじょうぶなこども ―
身体をきたえることは、こどもの「すこやかな」成長、発達を促すため
の基礎です。
このためには、自分の手・足やからだ全体を自在にうごかせるようにな
る、自分のいる場所の状態に応じて、からだのバランスがとれるように
なる、自分の手・足・目などが互いに〈働き合う〉ようになることが重要
です。
健の教育は、こどもにとって「おもしろさ」を感じとれる活発な遊びや
運動を通しておこなわれます。遊びや運動をしながら自分の手・足を思う
ままにはこべるようになる力強い丈夫な身体はこどもの一生涯を長く太く
ささえる「幹」となります。
術の教育
― 技術をほりだすこども ―
ものを食べること、衣服や靴下を脱いだり身につけたりすること、水に
遊ぶこと、道具を扱うこと、あるいは作品をつくることや木に登ることな
ど、いろいろな生活の分野に術を「あみだす」手がかりがあります。
砂でつくる「お団子」にも砂の性質に応じた水分の加減、手指の力の入
れ方や「お団子」の置き方などによって、完成したり失敗したりする過程
があります。こどもは何度も繰り返しながら、みずからによる「術」をほ
りだします。
術とは、物や道具の「本性」に自分を「あわせる」ことが「うまくでき
ること」であるという体験から生まれます。ハサミと紙でものをつくろう
とする過程で、ハサミや紙の「本性」にしたがって「あつかいなれる」こ
とが、ものづくりでのおもしろい体験となって、技術が高まります。こど
もが自分自身をものに合わせていくこと・こどもがものの「本性」や原理
に順じて自分自身の力を加減し、調節する感覚をはたらかせるように促す
教育です。